「あら、かわいいわねえ」


家に帰ってひとみの顔を見たママが言う。


「でしょ?なのにひとみってばかわいくないとか言うんだよ?」
「あら、もったいない」


ママも私と同じ反応だ。


「だから私が磨くの」


そんな私の言葉にひとみは苦笑している。
部屋に入って、私はいろいろとまどってる様子のひとみに聞いてみた。


「ねえ、ひとみはかわいくなりたいと思わないの?」
「別に…」
「もてるよ?」
「もてたいと思わないもん」


あら…。


「もてたら楽しいよ?」
「彼氏とか欲しいと思わないんだよね…」


意外な答えに私がとまどってると、ひとみがじーっと私の顔を見つめてくる。
やめてよ、ドキドキするじゃん。
…え?
ドキドキ?
なんだ? これ…。




翌日、私はひとみを連れて買物に出た。
ひとみに似合う服を買うって言ったらママが軍資金をくれた。
さすがファッション業界人だ。
いい素材を磨くのは好きらしい。


「ねえ、どんな服がいいの?」
「わかんない、どんなのが似合うと思う?」


ひとみは身長あるしなあ。あんまりかわいい系は似合わないかも…。


「あ、あんなのどう?」


私が指差したのは、いわゆるストリート系のブランド。


「似合うかなあ」
「絶対似合うって。入ってみよ?」


私は半ば強引にひとみを店に連れて入る。
全くわかんないって言うひとみに私はいろいろ服をすすめる。
途中からは店員さんも加わって、ああでもないこうでもないってひとみは着せ換え人形状態。
おまけに店員さんが「かわいい」だの「かっこいい」だの言いまくるもんだから、ひとみってばテレて真っ赤だし。



「ふぃ〜、疲れたぁ」


帰ってくるなりベッドにダイビングするひとみ。
ちょっと引っ張り回しすぎたかな…。


「今すぐご飯作るからね」
「あー、いらないや。疲れたし」


ありゃ、まじ疲れたのね…。


「ごめん、引っ張り回しすぎた? 大丈夫?」


心配になって顔を覗き込んだら、ひとみは速攻笑顔になって
「食べるよ、大丈夫」だって。
優しいんだね、意外と。
でも本当に疲れていたらしく…。


「食い過ぎた…。苦しい…」


いつもいっばい食べるから同じ量出したら、
疲れた胃袋に頑張って詰め込み過ぎて、胃もたれで苦しんでる。
残したらいいのにって言ったら、
真希がせっかく作ってくれたのにもったいないでしょ?って。
こういうさりげない優しさがひとみの魅力。
って、私、こいつのこと苦手だったんじゃ…。


「胃薬飲む?」
「うん…」


胃薬飲ませて、暫くベッドで背中さすっててあげたら、すやすやとそのうちひとみは寝息をたてはじめた。
…どうすんの? これ。
私の膝枕で気持ちよさそうに寝ちゃってて…
知らない間に私も眠りに落ちていた。

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