今日は朝の拒否反応が酷くって、職員会議に間に合うかどうかギリの電車になってしまった。


「よっすぃー?」


急に名前を呼ばれた。
あたしは学生から「先生」って呼ばれず、「よっすぃー」って呼ばれていた。
声のした方向を見ると後藤さんがいた。


「後藤さん…」
「なんかよれよれの顔してるよ?」
「うん…体調最悪…」
「あら…」


あたしの前まで混んだ車内を移動してきた後藤さんは
「大丈夫?」って言ってあたしの腰に手を回した。


「よっかかっていいよ?」
「ありがと…」


ラッシュで身体がぎゅうっと密着する。
あたしは少しだけあたしよりちっこい後藤さんにもたれた。
甘いバニラの香りが鼻腔をくすぐる。
つかの間だけど、あたしは緊張を忘れることができた。


後藤さんといるときはどうってことないのに、
あたしの極度の人見知りから来るパニック症候群は日に日に酷くなっていった。
授業が終わるたびにあたしはトイレにかけこんだ。
昼休みはご飯も食べられずに屋上で時間をつぶす。
恋人はいるけれど、年下だからってカッコつけて愚痴らないできたけれど、もう限界だ。
今夜は会いに行くこにとしよう。



「マコ…」

あたしはもらっていた合い鍵で中に入ると、ベッドにダイブした。



「ぜん゛ばい゛、ぐる゛じい゛…」

蛙が潰れたような声を出したのがあたしの恋人、小川麻琴だった。


「どうしたんですか?」
「マコ…」


あたしはなにもいわず、ただやみくもに麻琴を抱きしめた。
麻琴も何も言わずそうしていてくれた。
あたしは朝までそうしていた。



「何があったかしらないけれど…」


唐突に麻琴が口を開いた。


「甘えたかったらいつでも来てくださいね」


ありがたかった。
引かれるかも知れないって思ってたのに、麻琴はちゃんと受け止めてくれた。


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