翌朝、あたしはいつものけたたましい目覚まし時計のベルじゃなく、
人の声で起きた。
そっか、後藤さんちに泊まったんだっけ。
ってことはだよ?
やっぱり。
目を開けると後藤さんがあたしを見ていた。
それだけで心が温かくなるから不思議だ。
「おはよう」
寝ぼけ眼の後藤さんが微笑む。
「朝ご飯作ってくるから待っててね」
「あ、朝ご飯いらない」
「なんで?」
「食っても吐いちゃう」
朝はあたしはトイレとお友達だから。
後藤さんはそんなあたしに野菜ジュースを作ってくれた。
おそるおそる飲み干して、
おそるおそる出勤準備をする。
少しだけお腹痛くて、
少しだけ気持ち悪いけど、
いつもに比べたら全然ましだ。
家を出るところまでは順調に進んだ。
「今日は大丈夫みたいだね」
「うん…でも電車が…」
いつも何回か途中下車しちゃうんだ。
「私が一緒だから。しんどくなっても介抱してあげるから」
「そうだね」
いつもは一人だから、
しんどくなったら周りの人に迷惑かけちゃわないかって、
そんなことまで気になっちゃって、悪循環繰り返してたんだよね。
でも今日からは一人じゃない。
それだけでも随分と気が楽だった。
電車の中でも、後藤さんはずっとあたしの前であたしの腰を抱いててくれて。
不思議だ。
今日は全くしんどくならないや。
学校最寄りの駅についた。
「じゃあ」
「え?」
「まさか毎日一緒に行くわけにいかないでしょ?」
「…なんで?」
「なんでも」
…そういえば後藤さんって他の生徒と一緒のとこ見たことないや。
かわいいってちやほやされてるわりにはいつも一匹狼みたいだよ。
「先生先行って?」
「うん、わかった」
情けないことに、途端に不安になっちゃうあたし。
「後藤さん…」
「そんな顔しないのぉ。ほっとけなくなるでしょ?」
いや、それはむしろ大歓迎だけど。
「帰り、また一緒に帰ろ?ここで待ってるから」
「うん、わかった」
そう言って右と左に別れた。
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