「どうしよう…」
ごっちんが困った顔を見せる。
そうなんだ。あたしはこれが怖かったんだ。
あたしを思い出した時、ごっちんはあたしとまいちんの間で苦しむ。
それがわかっていたから。
「ちゃんと話さなきゃね」
「そうだね」
「明日、会いに行ってくるね」
「わかった。あたしも会いに行ってくる」
「…なっつぁん?」
「うん」
きっとあたし達は明日、修羅場を迎えるんだ。
そして翌日、あたしは安倍さんに土下座した。
無理矢理に抱いといて、忘れてほしいはかなりしつれいなことだってわかってる。
でも、あたしには何回でも土下座するしか出来ないから、
何回も額を地べたに擦りつけた。
大人な安倍さんは目に涙をいっぱいためながらも、
「ごっつぁんのこと泣かしちゃダメだよ?」って許してくれた。
だけど、この日ごっちんは帰ってこなかった。
携帯も繋がらなくて、あたしは一睡もできずに朝を迎えたんだ。
『今帰った』メールが来た。
『会いたい。会える?』
『そっち行くね』
程なくしてあたしの家に来たごっちんは、明らかに寝不足の顔をしていた。
「寝てないの?」
「うん…」
ごっちんの歯切れが悪いのが気になる。
「まいちんと別れられた?」
「うん。別れたって言うか友達に戻ったよ」
「朝まで話してたの?」
「…」
…やっぱそうなの?
「ねえ、真希ちゃん、ほんとのこと話して?」
「ごめん…」
その言葉だけで全てわかる。
そりゃそうだよね。嫌いで別れるわけじゃないんだから。
最後にもう一度、そうなっても不思議ではない。
以前のあたしなら即キレてただろう。
だけどもう、あたしはごっちんを失いたくないんだ。
あたし、よっぽど情けない顔してたんだろう。
「よっすぃ〜」
「…ん?」
「私、汚れてるよ?それでもそばにいていいの?」
真っすぐな目だった。
「そばにいてほしい。真希ちゃんがあたしのことを忘れ去るってことがどれだけ寂しいか、
そうなってみて初めて気付いた。
もうこんなの絶対いやだから…だからずっとそばにいて?」
笑顔で近づいてくるごっちんを、そっと抱き寄せる。
「でもさ、もう忘れないでね?寂しくて死んじゃう」
「んもぉ〜、かわいいねえ、ひーちゃんは」
朝焼けに伸びる影は、長い間一つだった。
FIN
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