「吉澤」
マネージャーが控え室に来た。
「はい」
「おまえ、今日はもういいから帰れ」
「え?」
「昼からの仕事は休め」
「わかりました…」
「タクシー呼んだから。一人で大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「あの…」
「ん?なんだ?後藤」
「私、午後から休みなんで連れて帰りましょうか?」
「いいのか?」
「いいですよ」
「じゃあお願いするよ」
「いいの?」
マネージャーが出て行ったあと、あたしはごっちんに聞いた。
「うん。練習終わるまでちょっと待っててね」
めちゃくちゃだるくて、椅子にもたれたままあたしは待った。
暫くしてごっちんが走って来た。
「お待たせ、終わったよ」
「…まいちんに怒られなかった?」
気になっていたことをきいてみた。
「怒られたよ」
「やっぱり…」
「真希ちゃんは人が良すぎ!ってね」
ってか、まいちんは『真希ちゃん』っていつの間にか呼んでるわけか…。
しかし怒ったまいちんがよく許してくれたよな…。
疑問に思って聞いてみた。
「うーん…秘密…」
気になるじゃん。
でも、聞いてしまうと立ち直れなくなりそうで、
あたしは追求しなかったんだ。
「よっすぃ〜、帰ろ?」
「うん…」
差し出してくれた手につかまって立ち上がる。
タクシーの中でも、しんどがるあたしをごっちんは自分の方にもたれさせてくれて、
ずっと髪をなでてくれた。
苦しい咳も、熱っぽさも、少し楽な気がした。
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