<9>

 

「あんた、そんなとこに寝っころがってたら危ないやろ!」

車から降りてきた関西弁の女の人がまくし立てる。
でも、近くに転がるバイクを見たんだろう。
あわてて駆け寄ってきた。

「事故ったんか? 大丈夫か? 救急車呼ぼか?」

あ、それはいやだ。

「いや、大丈夫っす」

あたしは上半身を起こす。<

「どっこも怪我してへんか?」

あたしは自分の身体を見回す。
ジーンズが破けて血がにじんでいた。

「大丈夫か? 病院行こ」
「いいっすよ」
「あかんて。じゃ家においで。薬塗ったるわ」

…何であたしにかかわる人たちはこんなにフレンドリーなんだ。
あたしはヘルメットを脱いだ。

「…女…の子?」
「そうっすよ」
「さ、行こ」

あたしはバイクを道端に寄せて
その女の人の運転する車に乗った。


「私の名前は中澤裕子。あんたは?」
「吉澤です」
「吉澤さんか。年はいくつ?」
「19になります」
「一回り違うんやな」
「一回りですか…ってことは…」
「あほ、計算せんでええわ」
「すいましぇん」

関西のノリって言うの?
中澤さんと話してると気が楽だった。


「ほら、早う、脱ぎ」

マンションに着いて、中澤さんが手当てをするからGパンを脱げって言う。

「え…、でも…」
「何テレてんねん。私かてな、そんな一回りも下の子に手、ださへんわ」
「はは…」

あたしは観念して手当てをしてもらった。
今は手当ても終わり、中澤さんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいるところ。



「なあ、あんた、なんでにげへんかった?」
「え?」
「さっきや。動けたやろ?」
「…はい」
「でもわざと大の字になってたんよな?」
「そのとおりです」
「なんでやの」
「……」
「まあ言いたくなかったら言わんでもいいけど」
「…死んでもいいって思ってましたから」
「はい?」
「なんか毎日悶々として…まあいっか、そう思ってしまいました」

初対面なのに、あたしは中澤さんに心中を吐露していた。
「なんか悩んでるんか?」

言ってもいいか…。
何も知らないこの人に、全部ぶちまけてしまったほうが楽かもな。

「恋愛ってうまくいかないな って」
「恋の悩みか」
「はい」
「で、相手はどんな男?」
「男だったら楽なんですけどね」
「……女の子?」
「ええ」
「相手が女やから悩んでるんか?」
「それもあるけど…」
「片思いとか?」
「相手もあたしのこと好きって言ってくれてるんですけど…」
「じゃあ問題ないやんか」
「いや…彼女はあたしのこと男だって思ってます。
男だと思ってて好きって言ってくれるんです」


中澤さんはあたしの顔をじっと見た。

「なあ、あんた下の名前は?」
「ひとみです。吉澤ひとみ」

中澤さんは立ち上がって自分のデスクからバインダーを一冊持ってきた。

「これ」
「はい?」
「見てみ?」

あたしはそれを開ける。
中のファイルに入っていたのは、愛しいあの子の写真

「これ…」
「見覚えないか?」
「え?」
「あんたのいとしの人ってこの子ちゃうん?」
「何で…」
「何でわかるんかってか? 私の仕事、言うてなかったな」
「はい…」
「マネージャーなんよ。後藤真希の」
「まじっすか!!」

あたしは思わず叫んでしまった。
なんか一年分くらい驚いた感じ。

「さっきあんたと会ったときな、なんかどこかで見たことあるっておもったんや」
「あったことないっすよ?」
「携帯や。真希の携帯の待ち受けがあんたやねん」
「そうなんですか?」
「そうや。これ誰やって聞いたら憧れの人って言うてた。
私もてっきり男かっておもったんやけどな。
真希は中性的なんが好みやし。
でも、さっきのあんたの話しを聞いたらつじつまが合うた。
あの待ち受けの人物はあんたやねんって」
「……」
「真希な、最近元気ないねん。会うてないんか?」
「会ってません。この先会う気もないです」
「なんでやの」
「だって真希はあたしのこと男だって思って惚れてるんですよ?
女だってわかったら、どんだけがっかりさせるか…。
最悪嫌われちゃう。そんなのいやなんです」
「逃げるんか?」
「え?」
「真希はそんなんで人を嫌いになったりせえへんで」
「でも…」
「真希な、傍目から見ても悩んでるんがわかるねん。
おそらく恋愛問題やって思ってたんやけど、間違いないな、あんたのことやろ」
「…ずっと彼女のマンションにいたんです。
でも…逃げました」
「逃げた?」
「ばれるのが怖くて、何にも言わずに出てきました」
「そっか…」
「傷つけたくなかったし、傷つきたくなかった」
「真希は充分傷ついてるで? テレビ見てへんか?」
「…真希、痩せましたよね」
「ああ、そうや。食べへんもん」
「食べてない?」
「そうらしいで。昼はな、私が一緒やから食べるけど
夜家に帰ってからが食べられへん言うてたわ」
「…あたしのせいなんですか?」
「同居人がいたんだけど、一人になっちゃったら寂しくて だって」
「……」
「私がスタッフやから同居人言いよったけど、ちゃうわな。愛しい人なんやろ」

痩せたのがあたしが原因だなんて…。

「食べたら気持ち悪くなるから食べないんだ ってさ。
これ以上ひどくなると立派な病気で心療内科行きやわ」
「そんな…」
「最初はな、がんばって食べてたらしいで?
でも食べたら吐いちゃうし、吐くの辛いからいやだ って食べんようになったって」


もうこれ以上聞きたくなかった。
あたしのせい?
あたしが悪いの?
勘違いしたままの真希が悪いんじゃ…
いや、やっぱり本当のこと言わないで
しかも何も言わずに飛び出したあたしが悪いんだよね…。



あたしはいたたまれなくなって、礼を言うのもそこそこに中澤さんの家を飛び出した。
「真希に会うたりや!」
そう中澤さんが叫んでたけど、聞こえない振りして。

つづく

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